ごぜんさま

2024/11/15

いつまでも遊んでいて、帰宅が零時過ぎになってしまった時などに、「ごぜんさま」と言いますね。これは、もちろん「御前さま」と「午前」をかけた 言葉なのですが、本物の「御前さま」とはどういう人を指すのでしょうか。
 これは元々、神仏の名を直接呼ぶのが畏れおおいとして、間接的に、しかも敬意をこめて御前さまと申し上げたのでしたが、やがて天皇や貴人、高僧をも 御前様と呼ぶようになり、静御前などと高位の女性にもこの語を用いるようになったものです。
 ところで、この語が一般化したのは、何よりも信者が高僧を御前様と呼んだことによる点が大きいと言えましょう。今でもお寺の格式によって、住職を御前さまと呼ばせているお寺が方々にあります。住職の呼び方は宗旨によって、ご院主様、方丈様、お上人様などいろいろですが、御前様という呼び名が宗旨に関係ないことも、この言葉が多く用いられるようになった原因の一つでありましょう。
 ところで、これを「御前(ごぜん)さま」と読まず、「御前(おまえ)さま」と読んだらどうなる でしょう。御前は、御前ということで、御前を訓読みにしただけなのですが、今ではどうやら、その意味に偉い違いが出てきてしまっているようです。ゴゼンと呼ばれて怒る人はいませんが、オマエと呼ばれると怒りだす庫い人は多いのです。オマエは自分と同等か、それ以下の人に使われる呼称だとされているんですね。いやはや言葉は難しいものです。
 昔は相手を敬って用いた「貴様」や「御前」が、今では相手を見くだした時 に使われる言葉となつてしまいました。今、巷で使われ出した相手を敬う言葉=オタクやセンセイも、やがてそんな運命を辿るのかも知れません。
 いずれにしましても、言葉を使うのは他ならぬ私たちです。相手の使う言葉に目くじらを立てるより、どんな気持ちをこめてその言葉を用いたのかを推し量り、良い言葉を良い意味のまま後世に残したいものですね。言葉を越えて、その先の真実をつかむことを不立文字、以心伝心と言います。

 

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